文芸漫談『春琴抄』
奥泉光×いとうせいこう 文芸漫談3 谷崎潤一郎『春琴抄』in北沢タウンホール
に行ってきました。
とうとうきました大谷崎!
とか言いつつですね、何を隠そうわたくし、谷崎潤一郎はこの『春琴抄』が初めてです。
文芸漫談に通ったりしていかにも文学好きな振りをしているけども、所謂「文豪」の作品はそんなに読んでこなかったのであります。
一通り読んだのは芥川ぐらいであとはちょいちょい齧った程度。
守備範囲はミステリー、ホラー、マジックリアリズム等々のばっちり現代文学なんで!
こうやって新たな世界を少しでも広げられて、両氏様様でございます。
で。『春琴抄』。
我がままで気の強い盲目の三味線師匠春琴に奉公人佐助が被虐的なくらい仕えつつ、2人だけの閉じた世界で一体になる、つまりは精神的エロスを描いた作品。(大雑把すぎるまとめ)
すごい…。
愛する盲目の女性が顔に火傷を負ったのをきっかけに、眼を突いて己も盲目になるって…!
筋もすごいけれども、その語り口の濃密なことといったら。
ちょっとこの感じは初めてだわ。
句読点が少なくて読み始めは面を食らったけども、流れに身を任せられるようになってくるとあっという間。
奥泉氏とせいこう氏による『春琴抄』における「語り」と小説構造の解説は非常にわかりやすくてうなずくこと頻りでした。
一般的な現代文学(ポップス)はひとつの語り口で物語が進むけれど、『春琴抄』はまず「評伝」という大枠があってその中で、作家自身の語り、伝聞、文語、口語などが重層的に間接的に連なっている
同じエピソードを様々な「声」で語り、様々な水準で語られている
そこにリアリティが立ちあがってくる
これぞ「小説らしい小説」
そして浄瑠璃の世界
途中、鳥が出てくる場面は言うなれば間奏、明るい転調
「語り」を見せるために筋があると言っても過言ではない
今日のお気に入りワード。
・春琴は生んだ子の父親は佐助ではないと言い張るものの、子の顔が佐助にそっくりというくだりで「春琴はDNAをなめている!」byせいこう氏
・「こういう話は嫌い!」by奥泉氏
折に触れて根本を否定…!でも、語り口の見事さによってずいずい読めて、胸に迫るんだそうです。
・浄瑠璃の世界を連ねてきたのに最後の最後で現代文芸になっている件について「その方がおもろいやろ」byせいこう氏
せいこう氏にちょくちょく大谷崎が憑依するのに笑った。
・「『大谷崎』とか名前に『大』を冠して呼ばれる人はきっと助兵衛なんですよ」byせいこう氏
…いい意味でね!
・谷崎は芸能至上主義および恋愛至上主義。古典芸能に精通していて「声」を聴き分ける力に富んでいる。
・せいこう氏の小唄の芸名は「春日豊菊せい」。
シーズン3「日本文学編」はこれで最後なんだとか。
次回シーズン4「マニアック編」に突入!
のっけっから葛西善蔵『子をつれて』とは…マニアック。マニアックだ…。
多分容易には書籍が手に入らないような作品をどんどんとりあげるので皆さん神田古書街などで探してください!とのお達しが下りましたぜ。
受けて立つ…!
- 作者: 谷崎潤一郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1951/02/02
- メディア: 文庫
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ところで、この新潮文庫版『春琴抄』は今まで私が手にした文庫の中でナンバー1の薄さだと思う。
比較するために並べてみた…!
ちなみにちっこい鼻兎コミックは、個人的な楽しみのためにむかーし作った豆本。