パニックフェイス

帰りの電車で運よく座れた。
本を読もうか眠ろうか逡巡していたら、いつの間にかうつらうつらとしていたらしい。
ふと目を開けると前に黒いコートの男の人が立っていた。
でもなんだか様子がおかしい。
お腹周りだけ異様にふくらんでいる。
顔や腕や足は普通体型、というよりむしろ痩せているのにお腹だけでかい。
…妊婦?
いや、でもどうみても50代か60代のおじさんだ。
コートの中にウエストポーチでもつけてんのかしら。
あまりじろじろ見るのも不躾なので、目線を下して首をひねっていたら。
ばさばさばさっ…という音と共に黒い鳥が数羽、おっさんのコートから飛び出してきた。
一瞬のことで驚く暇もなかったじゃないか!
妙にちっさいカラスだな…。
ていうかなんでカラスを腹で飼っているんだ。
しかもなんでそんなガードが甘いまま電車に乗ったんだ!
そうか、マジシャンか、ショータイムか…!
でもそれ、マジックって言わない気がするよ、種もしかけも本当にないじゃん。
ノ―リードはいけません!ちゃんと繋いどいて!
そうか、伝書鳩ならぬ伝書烏か。
私に何かメッセージを?
カラスを恐れないで、嫌わないでっていうメッセージ?
確かに会社へ行く途中、ごみを漁っているカラス達の横を通るのが怖くてたまらないんだけども。
50センチくらいの近さで見るカラスって思いのほかでかくて怖いんだよ…。
…て、電車の中で目の前でカラスをばっさばさ飛ばされても逆効果だよ!拍車をかけてますよ!
ぜえぜえ。
…くそう、毎朝都会のカラスにあまりにも怯えすぎて、夢にまで出てきやがった…。
電車の中でカラスが解き放たれてすぐに目が覚めたので、その後の車中の阿鼻叫喚絵図は見られませんでした。
でもその悪夢のおかげで今朝はちゃんと起きられたから良しとしよう。