ガクガク律儀

chianchun2009-10-30

いとうせいこう×奥泉光 『文芸漫談シーズン3』 安部公房砂の女』」に行ってきました。
文学を笑え!をコンセプトに、シリーズで行われている文学ライブ。
一人暮し開始記念に、仕事帰りに一人で何か舞台系のものに行きたい!と思い立って行ったのがこれ。
このセレクトはちょっとどうだろう、初めてだし小難し過ぎて着いていけなかったらどうしよう…と若干の懸念を抱きつつ、「砂の女」を再読して準備万端、けっこううきうきしながら行ってきました。
なんせ、いとうせいこう氏は私にとって見仏の神ですから!
見仏記のDVDも持ってますから!
…いや、今日は違うけどね。
相方はみうらじゅん氏じゃないからね。
奥泉光氏の著作は申し訳ないことに未読なんですが、芥川賞作家なんですね。
想像以上によくしゃべるおじ様でした。…そりゃそうだ、漫談だもの。
てっきりいとうせいこうが主導なのかと思ってた。
大学教授だもんな、講義は慣れたものですよね。
しかもうっすらとした分担だけども、奥泉氏がボケで、せいこう氏がツッコミなんですねえ。
いやあー楽しかった。
砂の女、笑えます。
私が読んでいていろいろ引っ掛かった部分にも、「可笑しいですねえ」「馬鹿ですねえ」とさっくりお二人の突っ込みが。
そうか、笑っていいのか!
この主人公の男はとにかく理屈っぽいんだよなあ。
命の危機が迫っているのにいらん分析をしたり自己正当化してみたり。
その真面目なんだけどどこかずれた理屈っぽさにおかしみを感じられれば、割と高度なユーモア小説に化けるんじゃないかとすら思うくらい。…些か乱暴ですけど。
本日のキーワードは「ガクガク」と「律儀」。
せいこう氏いわく、安部公房の文章はガクガクしている、と。
滑らかに一定方向に流れるのではなく、昨今のブレイクダンスのように多方向へとテンポをずらしているということらしい。
なるほど、言い得て妙だ。
上質な比喩や理屈捏ねやリアリティ構築や、奥泉氏が言うところの「律義さ」がうまいこと絡みあった末の「ガクガク」かもしれないですね。(そうなのか?笑)
まーとにかく律儀だと、奥泉氏は力説しておりました。
砂の中の集落、という有り得な過ぎる虚構をとにかく律儀に律儀に書いてリアリティを持たせるように構築し、我々がいる世界と一続きですよ、と。
安部公房は、ガクガク律儀王!ですな…!
小説の構造やレトリックの解説も大変わかりやすくて面白かったです。
せいこう氏の、最上のメタ視点の話とか、演劇における「砂の女」、あたりをもう少し詳しく聞きたかったなあ。
そういえば、「星新一」「安部公房」「小松左京」ラインが云々、とかいう話がちらっとあったんだが、このライン、まんまと父親の本棚に並んでましたよ。
やっぱりこの年代の男性はこのラインを通るんだなあ。
父親の影響で、私も星新一安部公房までは行ったものの、小松左京はスルーしてその下に並んでいた横溝正史に行きましたねえ…。


終演後に、以前の文芸漫談本を購入してちゃっかりサインをいただいてきました。
やった…!
次回は1月に国木田独歩の「武蔵野」ですって。
また是非行きたい。


砂の女 (新潮文庫)

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